染     色

(Yim Sik)

 

 

手に入りたいもの。
どうしていつも遠ざかるでしょうか。

手のひらを見つめて、私は、ただ空気を捕まった。

 

 

 

 

 

「はっ、ほんっとうにおめでとうございますわ、祐巳さま」

「瞳子ちゃん?」

「細川可南子とスールになったんですって?
だから忠告したじゃありませんか、あんな人…」

「瞳子ちゃん!」

「…もう、わかりますよ。
全部、はっきりわかりますからね。祐巳様には可南子さんがいいって」

「可南子は、大切な妹よ。だから、彼女の悪口はやめて」

「……仕方ありませんでしょう!私は、彼女のこと嫌いですわ!」

 

 

 

 

 

風を振り切って、ただただ走る。
全力を使って、足を加速する。
もう、どうだっていい。どうなってもいい。
どうせ、愛したこと、大切にしたいこと、全部遠ざかるから。
不器用のままに。何もかも逃がしたままに。
こんなにも切ないなら、最初からいらなかった、愛する気持ちなんで。

最初から、最後まで、小生意気な後輩でありたい。

 

 

 

 

 

赤い薔薇。赤い血。

 

 

 

「瞳子、バカみたい…」

血に塗れた両手を見つめて、瞳子は囁く。
どんなに赤いだって、薔薇になれないから。
苦笑して、目の前にあるロサ・キネンシスを撫でて。

「空回りの繰り返し…か」

「どうしよう…両手まっ赤い…」

「蛇口に洗おう…」

ああ、痛い。
冷たい水が傷口を当たって、本気に痛い。
でも、我慢するしかないでしょう。これ以外な選択がないから。

「…っ。痛い…なんで、バカだろう」

なんで傷ついたんだろう。
全力で無我夢中で走るとき、木の小枝にやられた。気付かなかった。
そもそも、はしたなくて走る自分が悪い。傷つけたのも自分のせい。他人と関係ないんだ。
そう…悪いのは瞳子だけ。

だからこそ、行き場のない怒りに悔しくて…










「本当。悔しくて自分の手を傷つくなんで、バカしかないわよ」


それは、黄色に近いな夕日でした−

 

 

 

 


「っ!?…よ、由乃さま!?」

「部活途中だけど。
縦ロールな髪型した生徒が凄いスピードで走ってると見つけたから、
付いてきちゃった」

「由乃さまってお暇なんですね」

「部活途中と言ったでしょう?
気になってから来てみたわよ。おもいっきり保健室へ行く必要あるでしょう?」

「余計なお世話です。 これくらい、瞳子は大丈夫ですから!早く部活に戻ってください!」

「可愛くないわね」

 

 


そう、可愛くない。可愛くないから、愛してくれる人がいない。

私を必要してくれるなんぞ、いるわけがない。

皆、瞳子いらないんだ。

 

 


「な、なに?何泣いてるの?
ほら、痛いでしょう。早く付いて来なさい」

「あっ……」

 

 

 


…不覚わ。ずっと我慢してた涙が、言うこと聞かない。
女優なのに。みっともない。
よりもよって、由乃さまの前で。
悔しい。
これ以上ない悔しい。

 

 


「はあ…瞳子ちゃんって、ここまで落ち込んでるとは予想してなかったわ」

「…なにを仰ってるのがわかりません」

「可南子ちゃんのこと。
祐巳さんの親友であり私が知らないと思うの?」

「その件、どうして私と関係あるでしょうか?
別に、祐巳様は誰とスールになっても、全然構いませんわ!」

「これだから可愛くないわよ」

「由乃さまに言われたくありません!」

「言わせなくても言い続けるわよっ!
あなたねぇ、祐巳さんのこと好きなくせにあんな態度取っちゃって、
天然で鈍感な祐巳さんがわかると思う?」

「…っ!誰か、あんな人を…!」

「祐巳さん以外、全員知ってるわよ。
感情には、演技だけでは隠して切れないからね。」

「………好きに言いたい放題をすればいいですわ」

 

 


口ではケンカしても、
由乃は瞳子の傷ついたで目立つな手を隠してまま保健室を向かって、
一緒に歩いてる。

 

 

 

 


「送ってくださって、ありがとうございます」

「あら、顔では『ありがとう』って見えないわね。
まあいいわ、栄子先生がいないから、手当てはまかせて」

「いいえ。自分がしますから。由乃さまは…」

「ごちゃごちゃ言わないの。
いくら私だって、傷ついた下級生を見捨てるわけには行かないわ」

「はあ…」

 

 


仕方なくて、由乃さまに手当てをして貰うことになりました。
瞳子を座らせて、由乃は棚に赤チンを漁る。

 

 


「赤チン赤チン…」

「いらないですわ、そんなもの。
さっき傷口を洗いたんですから…」

「それじゃあまた足りないのよ。
傷を酷くにならないように、気をつけないと…」

「赤チンなんで、どう探しても手に入れませんと思いますわ」

「赤いから…?
……ああ、なるほど、栄子先生のデスクの上に、
空ぽった赤チンの瓶があるわけね」

「……」


 


空ぽった。
まるで、奪われたのよう。
いいえ、先に”使わせた”なだけだ。

 




「じゃあ、黄チンを使いましょ」


−と、貴女は意味深いな微笑みを浮べながら言った。

 

 


「え…?」

「傷口を洗うには、赤チンだけではなく、
黄チンだっていいでしょう?
ほら、手を貸して」

「あ、はい…」

 

 

どういう意味?
そのままの意味と思えませんわ。
その、妙な微笑を見たら、過去の経験によって、
これからはきっと何か凄いことをしちゃうわ、由乃さまは。

 

 

「いったい、何をしたいのですか、由乃さま…」

「言葉通りだけど」

 

 

瞳子は手を差し出さないまま、由乃を見つめてる。
なぜか、手を出したらその微笑の裏の何かにやられそうみたいから。

 

「瞳子ちゃんは赤チンの方がよかった?でも空ぽったから仕方ないでしょう?」

「わかります!だから、諦めてたじゃないですか!」

「そう、今なら諦めるしかないわね。何もかも手遅れだから」

「……知ってます…っ!」


 


さっきまで抑えた怒りが帰って来た。
どうしてこの人はいつも、人の神経を逆撫でが好きなんだろう。

 

 

「…効果は赤チンとあんまり変わらないと思うわ」

「ええ…」

 

 

 

 


「黄色で塗れるわよ。異議なし?」

 

 

 

 

 

 

「……考えさせていただきます」

 

 

 

すっと離れて。瞳子は棚へ行きました。
そして、青チンを取り出した。

 

「今は、青チンでいいわ」

「あ、そう。この様子じゃ、
自分でやられそうわね。また今度、返事を聞かせて」

 

なんの返事?とは言わない。
お互いもわかってるんだから。

 

「その時になったら、またよろしくお願いします」

 

由乃は微笑んで、さっさと保健室から出てきた。

 

 

 

 

 

 

 

「ちぇ、見えちゃったのか…」

 

 

と、廊下で一人で囁く、由乃。
その手には、なぜか綺麗な緑の石が輝くロザリオがあった。

 

 

 

「上手く逃げられちゃった…まあいい」

 

 

 

時間がある。剣道部の試合まであと一週間。
一週間以内。きっと…

 

 

 

 

「黄色で染ませてあげるわ」

 

 

 

 



あとがき:

はい、御猫です。日本語SS再挑戦、見事な惨敗だ、はっはっは!!……_| ̄|○_____

おかしいな日本語ですみません、アホなストーリーですみません。最後まで読んでくださって本当に大変感謝してます!!

私は祐瞳好きだけれど、由瞳も萌えです。このSS、最初は痛くてシリアスな片思い風だけど、由乃が登場したらほ
のぼのになってたみたい?

もし可南子が祐巳の妹になったら、瞳子はどうなるかなーって、いつも考えてます。とりあえぜ自我妄想を書いてみよう、と、「染色」が誕生しました。
ちなみに、「染色」は中国語、意味は「色を染まる」。「Yim Sik」は広東話読み方です。

最後…瞳子嫌いな方にとっては、嫌なSSだなぁ〜と思います。(笑)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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